糖尿病と心臓リハビリテーション

糖尿病と心臓リハビリテーションについて

糖尿病の重大な合併症として心筋梗塞があげられます。
多少血糖値が高かろうと、自覚症状が無いことが多いですし、日常生活に困ることも少ないでしょう。しかし、合併症である心筋梗塞になると激変します。
治療法の進歩に伴い救命率が高くなったとはいえ、救えない命が少なくないのも事実です。また救命できても、心臓に重い障害が残ってしまったり、不安・不自由を抱えたまま日常生活に戻る方もいらっしゃいます。

糖尿病と心血管疾患イベントリスクの関連日本人における糖尿病と心血管疾患イベントリスクの関連を調査した研究。
約3万人を平均12.9年間追跡。
糖尿病の者は、健常者と較して、性別や年齢に関係なく心血管イベント発症リスクが約3倍上昇することが示されている。

左記画像は saito I, et al.(Atherosclerosis. 2011 May;216(1):187-91)より一部引用

さらに、心筋梗塞は「風邪」のように繰り返す可能性のある病気というのも重要なポイントです。心筋梗塞を患った方が、可能な限り元の生活に復帰して、不自由ない生活を送るためだけではなく、命に関わる病気の再発を予防するための治療法として心臓リハビリテーションというものが存在しています。

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1)糖尿病における心臓栄養血管(冠動脈)病変の特徴

心臓に栄養を運ぶ血管(冠動脈)が完全に詰まってしまって、心臓の組織が死んでしまう(壊死)病気が心筋梗塞ですが、糖尿病を患った方の心臓の血管の特徴として、①病変が全周性(幅広く詰まる)、②多枝病変(血管の複数の箇所が詰まる)、などが知られています。

糖尿病における心臓栄養血管(冠動脈)病変の特徴

重要なポイントは、「心筋梗塞に至る可能性のある個所が一つではない」ということです。糖尿病では、第2、第3の心筋梗塞を発症する可能性のある個所が多数存在する可能性が高くなるということになります。

カテーテル治療で全部治療すればいい?実は、簡単にみえるカテーテル治療にも大きなリスクが伴いますので、可能性のある個所全てを治療することが出来ないこともあります。このように糖尿病は、心筋梗塞の発症率を上げるだけでなく、再発率を上げる要因ともなりえます。

★この章のポイント★

心筋梗塞における急性期治療(心臓カテーテル治療)は、「対症療法」であり、心筋梗塞に至る原因を取り除いたわけではありません。一先ずの「救命処置」という点がポイントです。
では、心筋梗塞を引き起こすきっかけとなるものは何だったか?
そう、糖尿病は心筋梗塞の引き金になりえます。また心筋梗塞の卵が複数存在しやすいのも、糖尿病の特徴です。
このことから、心筋梗塞の再発予防を考える際には、糖尿病の改善が重要となります。

2)心臓リハビリテーションの内容

心臓リハビリテーションの内容

① 運動療法
② 食事、薬に対する正しい知識の習得
③ カウンセリングなど
心臓の病気と上手く付き合って行くための総合的なプログラムです。

心臓カテーテル治療は一先ずの「救命処置」でしかありません、命が助かったから元通りの生活に全員が戻れるとも限りません、また再発しないとも限りません。体力の改善には運動療法が中心的な役割を果たしますが、再発予防にはさらに適切な内服管理、食事管理も外せないポイントです。

運動、食事、内服は、「自分自身で」何とかしていかないといけません。
とは言っても、運動や食事といった生活習慣の見直しや、改善は案外難しいものです。
そこで、当院では医師、看護師、運動指導士などがチームを組んで、心臓リハビリに取り組む方のサポートを行う体制を整えております。

心リハの効果

心臓リハビリの軸は運動療法で、30分程度の有酸素性運動と、中程度の筋力トレーニングなどを組み合わせて実施されることが多いです。
その運動療法の効果としては、心臓の機能そのものの回復改善よりも、全身の血管機能の改善や骨格筋機能の改善の効果が大きいとされています。

ここで糖尿病と血管機能に関してですが、多くの場合、糖尿病では炎症や酸化ストレスにより血管機能が低下しています。
糖尿病で低下した血管機能に対して、適度な運動は血管の炎症を軽減させ、血管機能の改善に効果的であることが認められています。また、運動に加え適切な食事管理により、高血糖を是正し、新たな血管ストレスを軽減させます。

★この章のポイント★

糖尿病の方も、心筋梗塞を起こした方も、全身の血管の機能が低下していると言われます。糖尿病に伴う血管障害は、第2、第3の心筋梗塞へ繋がる確立を増やしかねません。運動療法を中心とした心臓リハビリは、糖尿病、心筋梗塞に関わらず、血管機能の改善に寄与することが期待できます。心臓の為の運動が、糖尿病で低下した血管機能の改善にもつながる、まさに一石二鳥です。

3)糖尿病における運動療法の狙い

急性効果

運動することで、血液中の余分な血糖をエネルギーとして消費することができます。食事により血糖値が200 mg/dlまで上昇するのを、食後1時間あたりでの運動を行うことで160 mg/dlに減らせるとすると、減った血糖値分だけ血管ストレスが軽減されることになります。当院の1時間の心臓リハビリでは、運動後の血糖が概ね30~50mg/dl程度低下しています。

慢性効果

血糖値を下げるインスリンの働きを改善させたり、筋肉の血糖を取り込む能力が向上することで、長期的に高血糖を是正することが期待できます。また、糖尿病は筋肉の萎縮(骨格筋減少)が進みやすいと考えられています。骨格筋の萎縮は転倒リスクを高めると共に、糖尿病悪化にもつながります。定期的な運動刺激により、骨格筋量の維持、または増加させることは、糖尿病の方の長期的な健康増進、ご高齢の方では介護予防のためにも必要な要素と考えられます。

糖尿病における運動療法の狙い

★この章のポイント★

糖尿病に対する運動の効果は、急性効果に加えて慢性効果もあり様々。運動できる体なのに、運動することをあえて選ばないのは「もったいない」と思います。
まずは、食後に15分程度のウォーキングから始めてみませんか?
ただ、糖尿病の方の運動では注意する点もありますので、次の項目も是非参考にしていだだければと思います。

4)糖尿病を合併した運動療法の注意点

糖尿病を合併した運動療法の注意点

低血糖

インスリン注射や内服薬の効果と、運動の効果の相乗効果で血糖が下がり過ぎることがあります。高血糖は時間をかけて体を蝕みますが、低血糖は意識障害(転倒リスクが増える)などその時に重篤な病状へ至る可能性があるので、運動に伴う血糖変動を個々に捉える必要があります。

低血糖対策

既に存在する合併症の確認

網膜症、腎症など、心臓血管以外の合併症が存在することも少なくありません。網膜症や腎症の程度によっては、運動療法が不適切であったり、運動内容に注意する必要もでてきます。

運動種目と強度

糖尿病で進められる運動種目は、

①ウォーキングなどの、ある程度長く運動を持続することができる有酸素性運動と、
②スクワットなどの、大きな筋肉を鍛えるレジスタンストレーニング(筋トレ)です。

どの種目を、どの位行えば良いのかは、「糖尿病の病態」や「合併症の有無」などにより個人差があります。下記の「運動について」を参考にしていただいても良いのですが、より安全かつ効果的な運動を行っていただくためにも、運動実施の際は、まず主治医に相談されることをお勧め致します。

運動について

★この章のポイント★

運動はいろんな効果が期待できますが、危険性も考慮する必要があります。心臓疾患や糖尿病の重症度、他の合併症の有無、各病態における注意点、また同じ病名でも運動に伴う危険性には個人差が存在します。周りの人に効果のあるやり方が、自分にも適切だとは限りません。せっかくの運動が、かえって病気を悪化させることになるのは避けたい。是非、糖尿病、心臓疾患専門の医師のアドバイスを受ける事をお勧め致します。

当院での診療実績:心臓リハビリテーション来院数

心臓リハビリテーションとは「心臓病の患者さんが受ける運動療法・患者教育・生活指導を含めた治療プログラム」のことです。当院では心臓リハビリテーション指導士がサポートしています。

2017
年度
2018
年度
2019
年度
2020
年度
2021
年度
2022
年度
心リハ来院数 1,441 4,012 5,094 7,608 8,012

最後に

糖尿病は心筋梗塞をはじめとした、心血管系疾患の発症リスクを高めると「考えられているだけ」ではなく、実際に心筋梗塞の約半数に糖尿病合併があるなど、糖尿病と心臓リハビリテーションは、密接につながっています。
心臓リハビリテーションがあるから、心筋梗塞になっても安心というわけではありません。リハビリにたどり着けないことも少なくないのです。

糖尿病の方が、心臓リハビリテーションを受ける状態にならないように、今不自由がないからなどと糖尿病を軽く考えずに、運動、食事、内服などと向き合っていただき、心筋梗塞の予防を心掛けることをお勧めします。

心臓リハビリテーションの詳細はこちら

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